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社内レポート

技術ブログ

2012年7月4日(水)

アメリカ発祥の新しいマーケティングリサーチ手法「MROC(エムロック)」 Vol.3

リサーチャーの視点から見たMROCの課題と今後の展望

SNSなどのソーシャルメディアが注目される中、時代のニーズにマッチしたデータ収集手法として期待されている「MROC」。しかし、新しいインサイト(本音・心の声)の抽出などの成果を上げるには、その特性についてよく理解しておく必要がある。

そこで「MROC」シリーズ第3回は、リサーチャーの視点から見たMROCの課題と今後の展望についてレポートいたします。

※このレポートは、GMOジャパンマーケットインテリジェンス株式会社とGMOリサーチ株式会社の共同研究です。

記事INDEX

リサーチャーの視点から見たMROC登場の背景

(1)データサンプリング方法の変化

~ランダムサンプリングからオンラインアクセスパネルへ~
インターネット登場以前、マーケティングリサーチを行う調査会社は住民基本台帳や電話帳を抽出フレームとして、調査対象者の母集団から調査対象者をランダムにサンプリング(無作為抽出)する標本調査を主に行っていました。
このランダムサンプリングでは乱数表(0?9の数を無秩序かつ出現確率が同じになるように並べた表)を用いるなど恣意性を排除しているため、調査対象者は統計学的に母集団とほぼ同じ性質を持ち、調査結果も客観性が高いというメリットを備えています。

ところが、世の中で個人情報を悪用する事件が起きるようになると、行政は住民基本台帳の閲覧を制限するようになり、各個人も電話帳に個人名を掲載しないようになってきました。また、共稼ぎ世帯が増え、日中留守にしている家庭が多くなったため訪問調査が成立しにくいという状況も生まれてきました。

そうした時代の変化を背景に、現在、一定規模のサンプル数を必要とする定量調査を行う際は、オンラインアクセスパネル(※)を使ったインターネット調査が主流になってきました。オンラインアクセスパネルの登録者を定量調査の調査対象者にすると、厳密なランダムサンプリングではなくなるため、客観性という部分が課題として残ります。しかし、早く、安く、便利に運用できることもあり、オンラインアクセスパネルを使ったインターネット定量調査が多く利用されるようになってきたのです。

※オンラインアクセスパネル:インターネット上でアンケート調査に協力意志のある個人に登録してもらって組織化したもの。協力者は自由意志でアンケートに協力し、謝礼を得ることができる。

◆GMOリサーチでは、自社で管理運営するinfoQと提携他社パネルをあわせて国内最大級の約200万人のモニター数を誇るオンラインアクセスパネルを保有している。


■データサンプリング方法の変化

(2)今後想定されるデータ収集手段の変化

~オンラインアクセスパネルからソーシャルメディアへ~
ここ数年、ソーシャルネットワークサービス(SNS)などソーシャルメディアの興隆を背景に、ソーシャルメディアを使って自分の意見を発信する動きが増えてきています。消費者が自由に発信している情報にこそ、インサイトが隠されているのではないか?と捉えられる場面も増え、こうした状況の中で調査会社ではインターネット上での新しいデータ収集手段(New MR)を開発するようになってきました。

今回レポートで取り上げている「MROC」もその一つだと言え、コミュニティ内で他の調査対象者と意見交換ができる従来にない手法のため、アンケート一辺倒ではないインタラクティブかつ刺激的な体験をしながら調査に協力してもらえるのではないかと考えています。

リサーチャーの視点から見たMROCの課題

(1)「グループインタビューをインターネット上で行うだけ」という間違った認識がある

現在、インターネット上の新しいデータ収集手段として期待を集めているMROCですが、リサーチャーの視点から見た場合、次の2つが注目されるポイントではないかと考えています。

[1]あくまでも「調査手法」ではなく「データ収集の手段」
[2]調査員→調査対象者への一方通行だけでなく、調査対象者相互のやり取りが可能になったことを意識しながら実施しなければならない。
→MROCは従来の定量・定性調査で行っていたアスキング(質問)をするのではなく、調査対象者同士の対話を「傾聴」することでデータを収集する手法。

しかし、こうした認識は現時点ではあまり浸透していません。しかも、MROCは、一定のグループを集めて調査を行うことが従来の定性調査のグループインタビューに類似しているため、リサーチャーによる調査設計も従来のアスキング中心となっているケースも多いようです。その結果としてMROCならではのインサイト抽出がなかなか実現されていないのが現状だと言えます。


(2)MROCで成果を上げるための技術的問題
MROCの運用で成果を上げるには以下の「運用」、「分析」の2点にも留意する必要があります。

【1】運用(モデレーション)
[調査対象者のモチベーション維持/タスクの管理/レギュレーションチェック]
MROCの運営では、常に迅速な対応が求められる上、調査対象者の数が多い場合は24時間対応に近い体制が必要となります。また、活発なコミュニティ運営を持続させるには、リサーチ・モデレートとは異なる能力が求められるなど、MROCに知見のある多くの人的リソースも必要となります。

【2】分析(レポーティング)
[インサイト抽出]
整形データをプラットホームから自動的に抽出することはできますが、インサイトを得ようとすると、すべての書き込みを細かくチェックする必要があります。大量のデータを効率的に処理して新しいインサイトという気付きを得られるかどうかは、リサーチャーの能力に依存することが指摘されています。まだまだ効率的な手法が確立していないこともあり、クライアントは短期間に一定の結果を出すためには従来のグループインタビューを選択するケースも多いようです。

まとめ-今後のMROC発展に向けて

最後に、MROCの普及・発展のため必要な3つのポイントを示します。

【1】MROCと従来調査とを組み合わせたリサーチ設計が有効
MROCを含むNew MRは、従来の定量調査(アンケート)・定性調査(インタビュー)に取って替わるものではありません。こうした新しい調査と従来の調査の利点を重ね合わせたり、弱点を補い合ったりといった、多面的なリサーチ設計を行うことにより、より精度の高い調査結果や新たな気付きを得られると考えた方がよいと思います。

【2】オンラインアクセスパネルを活用して、リサーチコミュニティの育成を図る
国内でMROCが定着するようになっても、私たち調査会社が保有しているオンラインアクセスパネルは継続して重要な役割を果たしていくと思われます。これらのパネル参加者は調査に対して的確に回答する経験やスキルを備えているので、うまく育成していくことでより有用なリサーチコミュニティ生成が可能になるはずです。私たち調査会社はこうした既存のリソースを活用したリサーチコミュニティを育てていくことで、クライアントに価値あるサービスを提供できるのではないかと考えています。もちろん、企業のブランデッドコミュニティでのデータ収集は可能ですが、競合製品利用層やサービス未経験層のリサーチはできません。そうした点で調査会社が運営するMROCは優位性を有していると考えています。

【3】効率的かつ有用な実施手法の探求に取り組むべき
MROCの運用では多くの人的リソースを必要とするため、リサーチ業界内で効率的かつ有用な実施方法について探求に取り組む必要があると思われます。


次回も引き続き同テーマを展開させていただきます。