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社内レポート

2011年11月9日(水)

携帯電話向けサービスを生み出してきた人間の視点で、スマートフォンの市場を読み解く

シリーズ開始

今回からスタートする GMO最新ネット業界レポートの新シリーズ「スマートフォン編」。第1回は本シリーズ執筆者である、GMOゲームセンター株式会社 取締役副社長 木村貢大氏のこれまでの経歴や、今後のレポートでお伝えする内容を語っていただいた。木村氏は2000年代初頭より携帯電話向けミドルェアやサービスの開発に従事してきた、モバイル開発のベテラン・エンジニアである。

スマートフォン業界ではコンテンツ・クロスプラットフォーム「VIVID Runtime®」の開発元として知られる株式会社アクロディアの取締役を務めながら、アクロディア社とGMOインターネットの合弁によるGMOゲームセンター株式会社の設立にともない、同社の取締役副社長に就任した。長年にわたり携帯電話市場に関わってきた木村氏ならではの、独自の視点によるレポートに期待したい。

記事INDEX

コンシューマーゲーム開発からケータイアプリ開発へ

私が携帯電話向けのアプリケーション開発に関わるようになってそろそろ10年ほどになろうとしています。今はスマートフォンが主なターゲットになっていますが、それまではいわゆる「ガラケー」や「フィーチャーフォン」と呼ばれる、従来型の携帯電話が対象でした。それ以前は、プログラマーとしてゲーム開発に携わっていました。具体的には、セガサターンやプレイステーション、ニンテンドー64、Windows、初期のプレイステーション2あたりまでです。

あるとき所属していた会社が携帯電話端末向けのミドルウェア開発に着手した事をきっかけに携帯電話と関係していく事になりました。当時の携帯電話というと、今からすれば考えられないくらい貧弱なスペックしか持っていませんでした。CPUはARM7で、クロックは30MHzや40MHz程度、メモリ も数十キロバイトという今では考えられない世界です。そんな携帯電話の世界に世の中にある様々な技術やサービスをのせて使えるようにする、というのが私の主な仕事でした。とにかくリソースが限られているので、パフォーマンスを確保するどころか動かす事自体がもの凄く大変な時代でした。

マイクロ秒単位の改善を求めて

コンシューマーゲームもシビアでしたが、当時の携帯電話はそれ以上にシビアでした。今のスマートフォンは性能が良いのでPC向けのアプリケーションに近い感覚で開発ができますが、当時はまさに組み込み機器向けのプログラミングという独特なノウハウが求められていました。

携帯の組み込み向けプログラムの場合、最終的にはアセンブラコードのレベルでパフォーマンスをチューニングすることになります。ですので、仮に言語がCだったとしても、コンパイラが効率の良いアセンブラコードを吐き出すようなプログラムを意識して書くわけです。そうすると実行速度では数ミリ、もっと言えばマイクロ秒程度の差が出てきます。この努力を積み重ねていくことで、全体のパフォーマンスの改善につながっていきます。当時はそういう世界で開発をしていました。

ユーザーに使ってもらえるアプリケーション3つのポイント

携帯電話というのはユーザーが最も身近に使うデバイスです。その上で動作するアプリケーションやサービスも、ユーザーが直接触るものになります。ですからユーザーに使ってもらえなければ全く意味がありません。この点はコンシューマーゲームでも同じことが言えます。

ではどんなものがユーザーに使ってもらえるアプリケーションと言えるのでしょうか。これまでの経験から、最低限おさえておかなければならないポイントが3つあると私は考えています。

POINT 1 「ユーザーを待たせないこと」
POINT 2 「分かりやすく、簡単であること」
POINT 3 「コミュニケーションを取り入れること」

詳しい話は次回以降のレポートで書いていく予定ですが、この3つのポイントは、これまでユーザーに直接触ってもらうサービスを作ってきた経験から導き出した答えのひとつです。

そのルーツはゲーム開発までさかのぼりますが、フィーチャーフォンの時代からスマートフォンの時代に切り替わったとしても通用するものだとも思います。対象である人は、人であり、そこはかわってないですから、スマートフォンになってもサービスの本質が変わるわけではありません。それをスマートフォンでどう表現していくかを考えたとき、フィーチャーフォンの世界にはたくさんのヒントがあるはずです。

PC市場・フィーチャーフォン市場それぞれの事情の違いを見極める

その一方で、スマートフォンという新しい分野ならではの注意点もあります。例えば個人情報の扱いです。今や携帯電話は極めて重要なパーソナルデバイスになっています。所有者個人のすべての情報が入っているとも言えるので、情報の流出、個人情報の悪用などのリスクも発生します。

フィーチャーフォンの時代は、通信事業者が細心の注意をはらいながら、制限をかけていました。しかし、PCに近い機能を持ち、開発が自由な、スマートフォンでは通信事業者側による規制が難しくなっています。そのため、踏み越えてはいけないラインをサービス提供者が自主的に判断する必要があります。

踏み越えてはいけないラインの見極めについては、PC向けのサービスを行ってきた事業者の方が適切な判断力を持っていると思います。PC向けのサービスにはもともと通信事業者の規制はありませんから、自主的に適切なラインを守ってきた歴史があります。とはいえ、PCに比べると携帯電話の方がパーソナルデバイスとしての重要性が高く、問題が発生した際の影響力が大きいことも考慮しなければいけません。

PC市場の事情とフィーチャーフォン市場の事情、いずれもスマートフォンでの戦略に生かせる部分があります。しかし逆に、そのまま導入してはいけないこともあるということです。それぞれの事情の違いを見極めることが重要です。

海外企業によるアプローチが、国内外の市場の違いを考える鍵になる

事情の違いと言えば、日本と海外の違いについても考える必要があるでしょう。携帯電話向けのアプリケーション開発の関係で、韓国に行って仕事をしていた時期がありました。簡単に言えば、日本の市場向けに作ったソフトウェアを、韓国に持っていって展開しようと考えました。ただ実際に行ってみると分かるのですが、日本と韓国ですら携帯電話市場の枠組み、もっと言えばユーザー携帯電話に対する考え方が大きく異なり、ただそのまま持っていっただけでは商売にはならないのです。

韓国に限らず、日本で成功したからといって、それがそのまま海外でも売れるとは限りません。逆に、海外のものがそのまま日本で流行ったという例もそれほど多くありません。良くも悪くも、日本の市場は独自性が高いのです。では、海外の企業は日本でサービスを展開するためにどんな努力をしているのでしょうか。そこに、日本向けと海外向け、それぞれの戦略の違いを考えるヒントがありそうです。本レポートでは、そのような視点での市場の見方も伝えられればと思っています。

スマートフォンという市場を読み解くヒントを提供したい

私がこれまでやってきた仕事を一言で表すと、「技術をサービスに変える仕事」ということではないかと思っています。そこにある技術を、どうやってユーザーに使ってもらえる形にするか。携帯電話向けのサービスの裏側を作りながら、そういうことをずっと考えてきました。

今後のレポートでは、そんな人間がスマートフォンの世界をどのように見ているかという話を中心にお伝えしていきたいと思います。スマートフォンという新しい市場を、これからどうやってとらえていったらいいのか、どういう戦略を練っていったらいいのか、そのヒントを提供することができればと考えています。

取材日:2011.10.26