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社内レポート

技術ブログ

2016年2月24日(水)

消費者の無意識な情動変化を分析する生体反応測定調査-Vol.5

「回答確信率」を利用した調査の実例

GMOリサーチがマーケティング・リサーチサービスの一環として提供している生体反応測定調査Emotion Measurement Series。その中で新たな調査手法として共同開発された「感性分析」の位置付けについて解説するのが本シリーズ。第五回は前回紹介した調査対象者の回答選択過程の反応(選択の曖昧さ)を可視化する「回答確信率」を用いた調査の実例についてレポートいたします。

記事INDEX

回答確信率とは

回答確信率(※1)とは、これまで解説してきた感性分析の仕組みを応用し、設問に対して調査対象者が悩んで回答したのか、確信して即答したのか、いい加減に答えたかなど、選択式設問において、ひとつの選択肢を選択するまでの過程を明らかにする手法のことを言います。
回答確信率の計測は、調査の対象となる設問と選択肢を、アイトラッキング機能を備えた据置型のアイトラッカーに表示することによって行います。調査対象者は画面を見ながら回答を選択し、口答で回答します(測定時間1設問:10秒程度)。この際に、アイトラッカーが調査対象者の「視線」と「瞳孔反応」を計測し、取得した「注視点」と「注目度の高さ」をベースに、「どのエリア」を「どの程度」注目しているかを導き出します。

上記の計測数値から全体の注目度総数に対する各選択肢エリアの注目度割合を算出したのが回答確信率です。図1では、注目度の高いエリアが赤、やや高いエリアがピンクとして、全体の注目度総数100%からそれぞれの注目度を割り振っています。その結果として、「好き」が50%、「やや好き」が30%、「やや嫌い」「嫌い」が10%ずつ注目されていることが分かると思います。
さらに、回答確信率と口答回答の結果を比較し、その整合性がとれていない場合はその回答自体の信頼性について注意して見る必要があると思われます。

(※1)回答確信率は、夏目綜合研究所が開発、提供する「感性判定解析システム」を用いたもので、感性分析の仕組みを応用している。

図1 回答確信率の算出
図1 回答確信率の算出
調査設計

今回は、回答確信率を用いたCM評価調査の実例を示し、実際にどのようなアウトプットが得られ、それによってどのように評価できるのかを事例として示しました。
調査設計は以下のようになっています。


目的:10名の調査対象者にヘアシャンプーに関する30秒尺のTVCMを視聴してもらい、同時にCM評価をしてもらう。

手法:調査対象者にモニターの前に座ってもらい、モニターに評価対象となるTVCMを提示して、視線および瞳孔反応データを取得する。
続いて、「今のCMは好感が持てますか?」「あなたはこの製品が買いたいですか?」という2つの設問をモニターに掲出した後、4つの選択肢から回答を選んでもらう際の回答確信率を計測する。

回答確信率を用いた調査の結果

(1)CM評価の結果

図2 30秒尺CMの平均注目度の推移
図2 30秒尺CMの平均注目度の推移

図2は、10人の調査対象者の平均注目度グラフです。全体の平均注目度は0.46 (※2)であり、その数値はそれほど低くないと評価されています。その中で6つのポイント(図2中の赤丸)で注目度の上昇が観測されました。その中で①④は、滑らかで艶やかな女性の髪のシーン、②⑤は、外国人女性モデルの顔のアップしたシーン、③は商品の機能説明などテロップのシーンでした。また、ENDの商品カット⑥の注目度は他のシーンに比べて低くなっていることが分かります。

図3 30秒尺CMの感情評価の推移
図3 30秒尺CMの感情評価の推移

また、感情評価(※3)の推移(図3)でポジティブな感情の表出度合いを見ると、3回程度、時間にして10%程度であり、少なめだったと言えます。

(※2)感性分析において明暗反応を除去した無意識の瞳孔反応を数値化したものであり、0.5以上で顕著に注目したと判断する。
(※3)人間の基本的な6感情を表情から判定するが、そのうち「喜び」の感情をポジティブと評価している。


さらに、画面に商品が登場する26~28秒(1,300~1,400フレーム(※4))後について、画面のどこに注目されていたかを、8分割した画面で調査しました。

図4 30秒尺CM(26~28秒後)における注目エリアとエリア別注目度総数
図4 30秒尺CM(26~28秒後)における注目エリアとエリア別注目度総数

その結果、エリア3と4にあるキャッチコピーよりも、エリア2と6にある商品に注目度が集中していることが分かります。具体的に数値で見ると、注目度総数は330.18、平均注目度0.366とある程度高い値を示しているため、商品そのものへの注目度が高いことが実証されています。
(※4)1フレームは1/50秒で、200フレームで4秒を表している。



(2)回答確信率の計測結果
続いて、2問の設問に対する回答確信率の計測結果を示します。
(※データ取得時に10名中1名のデータに不備が発生したため、回答確信率はそれ以外の9名のデータをもとに集計)

設問1:今のCMは好感が持てますか?

設問に対する回答は図5のように4つの選択肢のSA(単一回答設問)で行われ、左上エリアが「やや好き」、右上エリアが「大好き」、左下エリアが「大嫌い」、右下エリアが「やや嫌い」となっています。回答確信率の集計結果を見ると、「やや好き」が全体の4割を超え、「大好き」が3割以上と、全体の約7割を占めるため、調査対象者は好感イメージを持ってCMを見ていると思われます。

図5 設問構成および解答確信率集計グラフ
図5 設問構成および解答確信率集計グラフ

次に口答回答の結果(表1)を見ていきます。「やや好き」が最も多く、「大好き」がそれに次ぐという流れは回答確信率と共通するものの、口答回答は「やや好き」に9割近くが集中するという結果になりました。ただ、この結果だけでなく、回答確信率集計で「大好き」が3割以上あったことも考慮しながら、全体を正しく評価する必要があると思われます。

表1 口答回答割合結果

1:やや好き2:大好き3:大嫌い4:やや嫌い
88.89%11.11%0.00%0.00%



以下は調査対象者から4サンプルを抽出したものです(図6)。ちなみに右下にある「注目度合計」は、ある意味、調査対象者の回答の信頼性を評価する尺度になると思われます。回答確信率で「やや好き」が8割となったNo.1の場合は、注目度合計も82とかなり高く、口答回答も「やや好き」を挙げているので、確信的に選択していると判断できます。しかし、回答確信率で「やや好き」が9割のNo.2の場合は、注目度合計の数値が12と低いので深く考えずに選んでいる可能性が高いと思われます。No.4やNo.5の場合は、口答回答では「やや好き」でありながらも、回答確信率では「やや好き」と「大好き」の両方を注目しているので、迷ったうえで回答していることが読み取れます。このように回答確信率を用いた調査では、通常の紙のアンケートでは把握できない、調査対象者が最終的に回答を選択する過程までを視覚化できることが分かると思います。

図6 調査対象者別の回答確信率(4サンプル)
図6 調査対象者別の回答確信率(4サンプル)

設問2:あなたはこの製品が買いたいですか?

設問1と同様に、設問2では購入意向を聞きました。設問1同様の4選択肢・SA(単一回答設問)で、左上エリアが「やや買いたい」、右上エリアが「買いたくない」、左下エリアが「どちらでもない」、右下エリアが「絶対買いたい」と設問1とは選択肢の位置が変更になっています。回答確信率集計では、「買いたくない」を含めてほぼ同程度の割合で、全体的に迷いが見られる結果となりました(図7)。

図7 設問構成および解答確信率集計グラフ
図7 設問構成および解答確信率集計グラフ

口答回答の結果は「どちらでもない」が4割強と最も多く、「やや買いたい」、「絶対買いたい」が続く結果となりました(表2)。


表2 口答回答割合結果

1:やや買いたい2:買いたくない3:どちらでもない4:絶対買いたい
33.33%0.00%44.44%22.22%



調査対象者から4サンプルを抽出した結果(図8)では、どれも注目度が分散しており、回答となる選択肢をひとつに絞りきれずに迷っている傾向がうかがえます。その中で、No.2は、注目度合計の数値が-17と極端に低く、口答回答では「やや買いたい」を挙げながらも、別のエリアを見ているため、あまり真剣には選んでいないことが推察できます。

図8 調査対象者別の回答確信率(4サンプル)
図8 調査対象者別の回答確信率(4サンプル)
まとめ

今回の内容をまとめると以下の5点になります。

1.回答確信率は、感性分析を応用した調査手法で、視線と瞳孔反応を計測することによって、調査対象者の回答選択過程の反応(選択の曖昧さ)を可視化できる。
今回のTVCM評価の事例では、調査対象者別にTVCMの視聴状況データを取得したうえ、モニター上に2つの設問を示し、CMの好感度、商品の購入意向度について回答確信率を用いて調査した。

2.視聴状況データの感性分析では、女性の表情、髪とともに、商品の特徴説明の字幕も注目されており、商品そのものに対する注目度が高いことがうかがえる。

3.好感度についての設問では、口答回答が「やや好き」:「大好き」が大体9:1なのに対し、回答確信率は4:3と大きく異なっている。これから、「やや好き」を確信的に選択した調査対象者と、「やや好き」と「大好き」で迷って「やや好き」を選択した調査対象者が存在したことが分かる。

4.購入意向についての設問では、口答回答で「どちらでもない」が44%と多く、「買いたくない」以外の3選択肢に分散したのに対し、回答確信率では「買いたくない」も含めて4選択肢でより一層幅広く散らばることになった。この結果より、各調査対象者が回答をひとつに絞り切れずに迷っている様子がうかがえる。

5.このように、回答確信率は調査対象者が口答回答に至るまでの言語化しにくい心の迷いを可視化することができる。このことによって口答回答に裏付けを与えたり、回答の意味合いを探ったりすることが可能となる。


次回は最終回として、Emotion Measurement Series4感性分析のまとめを行います。


「生体反応測定調査」についての詳細問合せは以下まで。
GMOリサーチ株式会社 国内事業本部マーケット・インテリジェンス事業部 担当工藤
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