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社内レポート

技術ブログ

2015年6月24日(水)

あらゆる広告のROIを最大化するための、全方位タッチポイント分析-Vol.5

タッチポイントのまとめ

マス広告や店頭でのプロモーション活動など、オフラインを含めたすべてのメディアへのタッチポイント(顧客接点)の分析および効果測定方法について解説する「タッチポイント」シリーズ。いよいよ最終回となる第5回は、これまで連載してきたタッチポイントの要旨をまとめ、その概念、測定手法、分析手法、今後の発展可能性についてレポートいたします。

記事INDEX

タッチポイントの概念

■タッチポイントとは何か?
タッチポイントは企業/ブランドと顧客の接点すべてを指し、一般的には「顧客接点」と言われる概念です。広告だけに限らず、売場、問合せ、SNS、口コミといったすべての接点を含み、AIDMAを代表とする消費者の購買行動モデルに即して理解されることが多いと言われています(図1)。

タッチポイント概念の重要性が認識されるようになったのは、1990年代にノースウェスタン大学のドン・シュルツ(D E. Schullz)らによって提案されたIMC(※1)概念からです。そこではすべてのタッチポイントにおいて、最適な手段、時期、場所で、一貫したコンタクト・マネジメントを行うことを提唱されています。

(※1):IMCの詳細については、タッチポイントVol.1参照。
https://www.gmo.jp/report/marketing/48/index.php

すべてのタッチポイントを通じて、効率的に一貫したメッセージを送り続けることは重要ですが、各タッチポイントによってその特性や受け手の性格は大きく異なるので、単純に同じメッセージだけを発すればよいというわけではありません。ブランディングのために、さまざまなタッチポイントをどのように管理していけばよいのかという視点から書かれたスコット・デイビス(Scott M. Davis)とマイケル・ダン(Michael Dunn)の著作"Building the Brand-Driven Business-Operationalization: Your Brand to Drive Profitable Growth" 2002(邦題『ブランド価値を高める コンタクト・ポイント戦略』2004)によって、タッチポイントの概念は広く知られるようになりました。顧客の購買行動に沿ってタッチポイントを理解するアプローチは本書を起点にしています。


■広告ROI最適化と購買ファネル
近年、複数のメディアを組み合わせたメディアミックス戦略が一般的となり、限られた広告費を最適配分する必要性が高まるにつれて、広告ROI測定が強く求められるようになりました。広告ROIの最適化を考えるためには、購買ファネル(※2)の概念に対する理解が不可欠になります。

消費者が商品を認知してから購買するまでの過程を、下記の図2のように5段階で考えます。このケースでは、最初にTVCM経由で商品を認知した10,000人の消費者は、各人の嗜好や購買検討過程で競合商品を選択したなどの理由で減少していき、最終的に購買に至ったのは最初に認知した消費者の1/40となる250人でした。こうした消費者の減少過程は水を注ぐ漏斗(じょうご)に似ているため、購買ファネル(purchase funnel)と呼ばれています。

購買ファネルにおいて、コンタクト・マネジメントを行う際には消費者が各ステージから次のステージに進むために最適なメディアを選定してトータルの広告費を配分します。こうした購買ファネルの改善を通じて、広告ROIの最適化を図るには、

TVCMなどのマスメディアを用いて、ファネル最上流に流入する認知層を増加させる。

ファネルの中下流で行うプロモーション活動を強化して脱落を防ぎ購買に結び付ける。

という2通りの方法があります。

タッチポイントの測定手法

広告ROI算定のためにタッチポイントを計測(※3)するには、キャンペーン実施中の消費者のタッチポイントを漏らさず取得し、各メディア間の影響を含めて分析する必要があります。具体的には、キャンペーン実施前に認知度や購買意向について事前調査を行った後、キャンペーン中に調査対象者のタッチポイントをすべて記録します。さらにキャンペーン終了後、事前調査と同一設問の事後調査を実施し、キャンペーン前後の差を検出する(図3)方法が取られます。

その際に、キャンペーン中のタッチポイント取得に関する注意点は以下のように2点あります。

①キャンペーンの終了後、一度にまとめてアンケート調査で取得することはせず、実施中にスマートフォンのようなモバイルデバイスを用いて随時取得すること。

②メディア接触だけに限定せず、口コミや店頭接触、オンラインのサイト訪問等、考えられるタッチポイントを全方位から広く取得すること。

これらによって調査対象者の記憶違いをなくして正確なデータを取得するとともに、メディア⇒口コミによる認知といった二次接触も漏らさず取得することが可能になります。

(※3):タッチポイント測定手法の詳細については、タッチポイントVol.2参照。
https://www.gmo.jp/report/marketing/49/index.php

タッチポイントの分析手法

■アトリビューション分析
アトリビューション分析(※4)は、もともとアドネットワークにおいてオンライン広告のROI算定に用いられてきた手法です。アドネットワーク登場以前は直前の最終コンバージョンしか把握できなかったのですが、アドネットワーク登場以降はそれ以前の履歴を把握できるようになったため、その貢献度合いを総合的に評価する手法として用いられています。オフラインのタッチポイントを含めても扱う範囲が拡大するだけでデータの性質は変わらないため、アトリビューション分析は、各メディアのコンバージョンの貢献度合いを評価する手法としてそのまま適用することができます。

例として、下図4に各メディアの貢献度合いを均等として評価する線形モデルを示しました。「TVCM」「雑誌広告」「ネット広告」の3点のタッチポイントが存在し、①のように「TVCM ⇒ 雑誌広告」を経て40,000個の購買につながった場合は、40,000個を均等に分けて20,000個はTVCMによる購買、20,000個は雑誌広告による購買と仮定できます。仮に、1個あたりの利益が300円であれば、トータルの利益1,500万円に対して、それぞれのメディアの貢献度合いを、

・TVCM 300円×(①20,000個+②5,000個)=750万円
・雑誌広告 300円×①20,000個=600万円
・ネット広告 300円×②5,000個=150万円

と個別に算出でき、それぞれの広告ROIも、

・TVCM (効果750万円-コスト500万円)/コスト500万円=50%
・雑誌広告 (効果600万円-コスト200万円)/コスト200万円=200%
・ネット広告 (効果150万円-コスト100万円)/コスト100万円=50%

といった形でメディア別に算出できます。

図4では実際の購買についてのみ算定していますが、広告の効果は購買意欲の喚起だけではなく、実際には「認知度向上」「企業・ブランドイメージの向上」「商品・サービス内容の理解」など多岐にわたります。したがって、それぞれの評価項目について事前・事後調査間の差を定量評価することで、トータルの広告ROIを算出することができます。

■アソシエーション分析
アソシエーション分析(※4)は、CRMにおいて顧客の購買傾向を分析するために、1990年代に生まれた手法で、膨大な購買の組合せからレコメンデーションに有用な情報を、一定のパターンに沿って抽出することが可能です。例えば、スーパーマーケットにおけるビールとおむつの購買の関係のように、一見関係のないように組み合わせに見えたとしても、トランザクションデータ(購入履歴)をトータルでスクリーニングすることでその関連性が見えてくるという分析方法です。

タッチポイントに関して収集されるトランザクションデータも膨大な量となるため、ファネルの構造分析を行うために有用な手法だと言えます。

アソシエーション分析は、「信頼度」「支持度」「リフト値」という3つの値の組み合わせで特徴的なパターンを検出します。以下の図5に簡単な例を示しました。

・信頼度 =「Aに接した人がBにも接した割合」であり、両者の関連の高さを示す。
「雑誌広告を見た人がネット広告も見る割合」=1,000/4,000=25%
「ネット広告を見た人が雑誌広告も見る割合」=1,000/2,000=50%

ファネル構造を見る上で、雑誌広告、ネット広告両方に接触した1,000名が雑誌広告を起点にネット広告に接触しているのか、ネット広告を起点に雑誌広告に接触しているのかはまったく別の意味を持ちます。したがって、雑誌広告、ネット広告それぞれの接触者を母数とした両方の接触者割合を見てやる必要があるのです。この例では、ネット広告に触れた人が雑誌広告も目にする可能性が、逆の場合の2倍あることが分かります。

・支持度 =「タッチポイント全体の中でAにもBにも接触された割合」を示し、タッチポイント全体に対するインパクトが分かる。
タッチポイント全体10,000のうち、両方接触したのは1,000である。
=1,000/10,000=10%

この値が小さければ、全体に対するインパクトが小さいので、改善施策がヒットする影響も小さくなります。

・リフト値 =「タッチポイント全体の中でBが接触される割合に対して、Aに接した人がBにも接する割合」を示す。この値が低ければ、AとBともに接する割合が高くても、Bに接する割合自体が高いことになり、特徴のあるルールではなくなる。
「タッチポイント全体でネット広告を見る割合」=2,000/10,000=20%
「雑誌広告を見た人がネット広告も見る割合」=1,000/2,000=50%

AとBの2つのタッチポイントについて、「AにもBにも接触する」というルール(※5)を考えたとき、これらの数値の組合せから顧客の購買傾向を検出し、購買ファネルの改善に生かすことができます。

例えば、店舗で商品を見てからネットで購入するという固定概念にとらわれて購買ファネルの設計することがあると思います。しかし、アソシエーション分析を行うと、商品の種類によってはネットで調べてから店舗で購入するという消費行動をする人が多いと分かる可能性があります。そうすると最初からネットで申し込ませるなど、各々のケースに合わせた購買手法を取った方が有益だと思われます。

(※4)タッチポイント分析手法であるアトリビューション分析、アソシエーション分析の詳細については、タッチポイントVol.3参照。 https://www.gmo.jp/report/marketing/50/index.php

(※5)こういったルールをアソシエーションルールと呼ぶ。タッチポイントの全組合せに対して確率が高いと考えられるアソシエーションルールを引き出すのがアソシエーション分析の目的である。

上記の図5の例では、何もしなくてもネット広告を見た割合が20%なのに対して、雑誌広告を見ていてネット広告を見た割合が50%なので、雑誌広告の影響が大きそうだ、ということが分かります。リフト値にすると、50%/20%で2.50になります。仮に、「雑誌広告を見た人がネット広告も見る割合」が80%あれば信頼度が高く、意味のあるルールのように見えますが、「タッチポイント全体でネット広告を見る割合」も80%であれば、そもそも全体の傾向としてネット広告が見られる割合が高いということになり、雑誌広告との関連は薄くなります(この場合のリフト値は80%/80%=1.00)。

これからのタッチポイント測定の課題と方向性

■課題
タッチポイントはオンラインの世界だけではなく、口コミや店頭といったオフラインの世界にその多くが存在します。しかし、現状ではオンライン上のように接触を自動的に記録できないため、調査対象者の協力を得てモバイルデバイスで情報を取得しています。そのため調査対象者に大きな負担をかけるばかりか、自動取得ではないため100%の正確性も担保されていません。


■方向性
調査対象者に負荷をかけないようにするには、できるだけ自動的にデータ取得ができる仕組みが不可欠です。近年インターネット環境があらゆる場所に広がり続け、それらを利用することでタッチポイントの自動取得が容易になり得ると考えています。代表的なものとして以下の2つがあります。

・Internet of Things : IoT(あらゆる製品・部品がインターネットに接続されること) インターネットに接続されたスマートテレビのように、さまざまな電子機器類がインターネットに接続され始めているため、対象となる電子機器を使用した情報をリアルタイムでアップロードすることによって情報の自動取得が可能になります。

・ウェアラブルデバイス
スマートフォンに変わる次世代型端末として実用段階を迎えようとしているのがメガネ型、腕時計型を代表とする着用可能なデバイスです。これらを通じて、消費者の行動を通じて直接見たもの、聞いたものなど、多様な情報を広く自動取得できる可能性が広がっています。

まとめ

2014年の日本の広告費は前年比2.9%増の6兆1,522億円(電通調べ、以下同じ)となり、6年ぶりに6兆円を超えました。中でも「インターネット広告」は前年比12.1%増の1兆519億円となり、1兆円を超えて過去最高額となりました。インターネット広告が全体に占める割合も17%となっています。特に、検索連動型広告やDSP/アドエクスチェンジなどの「運用型広告」が前年比23.9%増の5,106億円となり、著しい伸びを示しました。

運用型広告の成長は、まさに「アドテクノロジー」の進化・発展によるものであり、アドテクノロジーは、広告主にとって広告出稿を効果的・効率的なものにし、メディア側にとってインプレッションの価値を高めるとともに、その収益の最大化に寄与しています。

「タッチポイント Vol.4」で解説した通り、アドテクノロジーの進化・発展により、インターネット広告の世界が大きく変化し、それにともない、これまでCRM中心だった「マーケティング2.0」も急速な変化をし始めています。ここ2~3年で、ビッグデータ、オムニチャネル、O2Oを包含するプライベートDMPという概念が登場しました。その背景には、既にCRMによって自社による大量の顧客データを保有しているメーカーやブランドが、その蓄積されたデータを顧客単位で、顧客一人ひとりの購買ファネル(タッチポイント Vol.1)に紐づけたマーケティング施策毎の貢献度(アトリビューション)を測定したいという要望があります。つまり、蓄積データとプロモーション施策がプライベートDMP上で統合されようとしています。

一方、リアルなオフラインの世界に目を向けると、消費者が商品・サービスを購入するまでに接触するタッチポイントがオンライン以上に数多く存在します。リアルな行動履歴データを正確に収集する仕組みを構築し統合することによって、プライベートDMP上で分析することが可能になり、顧客の理解をより深めることが可能になるでしょう。


次回以降は、インターネット調査専用パネルの発展と新しいサンプリング技術について解説する新シリーズをスタートします。


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GMOリサーチ株式会社 マーケットインテリジェンス事業本部 担当佐々木
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