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社内レポート

2014年4月9日(水)

積極投資を続けるAmazon。回収期への移行はいつになるのか?

小売EC市場を引っ張るAmazon。国内ECでは意外な数字も…

成長を続ける日本EC小売市場、2012年はAmazonが日本でのEC売上を開示したことで注目を浴びました。
しかし、2013年12月期の売上はというと……

前回のレポートから一年、世界の小売EC市場を牽引するAmazonの動きを振り返ります。

記事INDEX

フリーキャッシュフローの定義

AmazonのCEOジェフ・ベゾス氏は「重視するのは利益率よりも長期のフリーキャッシュフロー」と公言して憚らない経営者です。まず、Amazonがいうところのフリーキャッシュフローの定義を明らかにしておきましょう。※以下、キャッシュフローについては、CFと略記する場合があります。

フリーキャッシュフロー = 営業CF - 内部利用のソフトウェア・ウェブ開発を含む設備の購入(以下、投資額)

本業からの稼ぎである「営業CF」から事業投資を行なった残りが、フリーキャッシュフローということになります。フリーキャッシュフローに注目するのは、Amazon自身がフリーキャッシュフローを重要な指標と掲げているからです。
(詳しくは【第110回】フリーキャッシュフロー激減の要因は?をご覧ください)

まずは、将来のCFの源泉となる「投資額」を見ていくことにしましょう。2012年に続き、2013年も過去数年を上回る規模の投資を行なったことがわかります。

投資の成果が現れたのか、営業CFは順調に伸びています。加えて、投資額の負担が小さくなったことから、FCFは年額20億ドルの水準まで回復してきています。

さて今後の投資の動向はどうなるのでしょうか?そのヒントが、AmazonのPLにあります。

一番伸びているのは「その他」

Amazonは売上をメディア(Media)・電化製品等(Electronics and other general merchandise)・その他というくくりに分けています。それぞれの推移を見てみましょう。括弧内は前年同期比の伸び率を示しています。

まず、「電化製品等」カテゴリがここ数年大きく伸びていることがわかります。これは、取扱い商品ラインナップを増やしてきたことによります。しかし、物販ビジネスは、Amazonがコストリーダーシップ戦略をとっていることもあり、利益率が低く(粗利率11%ちょっと)、利益面での貢献は限定的となっています。業界首位級のAmazonがこの利幅で事業展開していることは、競合他社にとっては悲劇でしょう。

次に、メディアですが、元々のビジネスである書籍販売に加え、デジタルコンテンツのダウンロード販売も含まれています。特にデジタルコンテンツのダウンロード販売は、利益面での貢献が期待できそうなところですが、カテゴリ全体での足元の伸び率は10%弱にとどまっています。

最後に、成長率で一番伸びているのが、「その他」カテゴリです。一般的に、その他カテゴリが一番伸びているというのはIR的にはイケてない、ということになるのですが、Amazonの場合、敢えてそうしているというのが正直なところでしょう。というのも、「その他」にはAWSが含まれているからです。パブリッククラウドについては、競合対策上なのか、具体的な数字を開示しているプレイヤーはほとんどおらず、当面は水面下の争いが続くのでしょう。

さて、上記の中で、デジタルコンテンツ・AWSという領域を伸ばそうと思えば、引き続き、IT投資が必要となってきます。ここ数年は、物流センター投資がメインだったAmazonですが、今後はIT投資の割合が大きくなってくるかもしれません。

日本での売上が前年割れ!?ただし、ドルベースのお話

さて、ここでは話を日本に移してみます。Amazonが日本の売上を開示し始めたのが2012年12月期。2013年12月期は2回目の開示ということになります。

数字を見てみると、2012年が78億ドルだったのに対し、2013年は76.3億ドルとなんと前年割れ!?しかし、これはあくまでドルベースのお話、アベノミクスで大幅に円安誘導された影響が出ていることに注意しなくてはいけません。2012年の平均レートが80円、2013年は98円と20%以上も変動しています。

各年度の売上を円ベースに引き直し、楽天・Yahooの取扱高とともにプロットしたのが下記のグラフです。括弧内は前年同期比の伸び率を示しています。

楽天・Amazonの躍進と、EC革命を実行に移したYahooの危機感というのがわかるのではないでしょうか?なお、Amazonの数字が小さく見えるのは、これはAmazonだけが「取扱高」でなく「売上高」であることによるものです。Amazonは取扱高を開示しておらず、サードパーティーによるマーケットプレイスでの取扱については、手数料のみを売上計上しています。このため、実際の取扱高は上記の売上より大きくなります。YahooのEC革命で今後はどのような推移となっていくのでしょうか?

AmazonのB/S、ネット企業というよりは……

さて、最後にこれらのAmazonの動きがB/Sにどう現れているのか見ていくことにしましょう。B/Sは調達した資金をどういう形で運用しているのか?を表現しています。

ポイントは2つ、まず細部にとらわれるのではなく、大きい部分に注目すること。そして、変化の大きな項目に注目すること。事前に企業のイメージを浮かべてから、B/S数値と見比べることで、すり合わせを行っていきます。

さて、Amazonの場合はどうでしょうか?

1.有形固定資産、物流センター増強中
冒頭で紹介した、CFにおける投資額がこの有形固定資産に蓄積されてきます。2013年は2012年に比べると投資水準は低かったようですがそれでも、有形固定資産の額は50%以上増えており、引き続き物流センターに力を入れていることがわかります。

2.売上債権・棚卸資産・仕入債務、Amazonのキャッシュの源泉
Amazonは自社で在庫を持つビジネスモデルです。顧客からの代金未回収分が「売上債権」、保有している在庫が「棚卸資産」、そしてサプライヤーへの未払い分が「仕入債務」になります。このうち、仕入債務が最大となっているのは、Amazonがサプライヤーに対して優位な地位にあるため、支払までの猶予が長いことによります。一方で、私たち一般消費者は比較的短期のうちに支払いを行なうことになるため、Amazonは両者の時間差により、キャッシュを生み出しているのです。

3.他力の株主資本、しかしこれは意図的なもの
株主資本については、2種類あり、分けて考える必要があります。それは、株主からの出資分(Paid-In Capital)と、自力で積み上げた利益(Retained Earnings)です。後者の値が大きいほど、「自走式」の企業ということができるでしょう。Amazonの場合、利益にこだわらない姿勢を続けていることから、 株主からの出資分(Paid-In Capital)が9割近くを占めています。前年比で10億ドル超増えているのは増資をしたことによるものです。この資金が事業投資へ回されているわけです。

こうしてみると、AmazonのB/Sはネット企業のものというより、完全に小売業という感じがします。違いはリアル店舗がないことくらいでしょうか。

Amazonプライム値上げは転換点か?

AmazonのCEOジェフ・ベゾス氏は「最適化すべきは長期のFCFの最適化」とし、短期の利益についてはこだわらない姿勢を貫いてきました。この姿勢は、Amazon・AWSでの低価格戦略というアクションに現れています。そしてこれらのアクションは財務的には、P/Lにおける低い利益率、そしてBSでの利益剰余金(Retained Earnings)の少なさという形に現れていました。

こういったAmazonの姿勢をマーケットも許容しており、株価は足元の利益水準を度外視した数値をつけてきました。3月末時点の時価総額は、1550億ドル超、PERは570倍以上、PBRは16倍と計算間違いを疑ってしまう水準になっています。

そんな中、Amazonは2014年3月、有料サービス「Amazonプライム」の値上げを発表しました。サービスの立ち上げから9年目にして、初の値上げだといいます。徹底した顧客優先主義を掲げてきたAmazonにとって、今回の値上げは変換点となるのでしょうか?

物販という利幅の薄いビジネスから、サービスに軸足を移すことによって、「回収期」へ移行するのか?
それとも、他の事業へキャッシュを投下することにより「投資期」は続くのか?

クラウドビジネスの拡大を考えると個人的には後者だと考えるのですが、稀代の経営者ジェフ・ベゾス氏ははたしてどうやって「長期のFCFの最適化」を図っていくのでしょうか?





本レポートは、企業業績や財務状況を直観的に判断できるビジュアライズレポートが個人投資家を中心に高い評価を受けている当社グループ広報・IR部の丸山(元、銘柄分析サービスの(株)シェアーズ アナリスト)が、独自の視点で企業・業界分析しているレポートです。


2014.04.01



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