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社内レポート

2013年6月12日(水)

米Yahoo!の「Tumblr」買収で勝機は訪れるか?

繰り返されるM&Aから推察するYahoo!の今後

「台無しにしないから("not to screw it up")」
11億ドルで買収したミニブログサービス「Tumblr」について、米Yahoo! CEOのマリッサ・メイヤーが残した言葉です。今回の買収案件は彼女がCEOに就任して最大のもの、というよりもYahoo!にとっても最大のものです。なぜこのような発言にいたったのでしょうか?Yahoo!の足跡と今後の展望を探ります。

記事INDEX

停滞する業績と、取っ替え引っ替えのCEO

さて、この買収にいたるまでのYahoo!を振り返ってみましょう。
下記は2003年から2012年のYahoo!の業績の推移、濃い紫が売上、薄い紫が営業利益です

2008年まで増加を続けた売上も近年は右肩下がり、また、営業利益も安定していません。このような動きの背後には、業績不振を受けてのCEO交代、短期的な利益改善のためのリストラ(そして、抜本的な対策は打たれず……)という悪循環があります。これだけ見ると、とても高成長のネットセクターの企業とは思えません。Yahoo!は停滞していると言わざるをえません。

どうしてこうなった? Yahoo!対Google

何がYahoo!をここまでの停滞に追い込んだのか?

そう、検索のGoogleです。下記は、先ほどのグラフと同期間の両社の広告関連の売上推移です。

こうして比較すると、2000年代中盤までの好調かに見えたYahoo!の業績も霞んでしまいます。検索連動型広告という収益エンジンをもつGoogleと、ポータルの価値に頼っているYahoo!。「ググる」という言葉が動詞になったように、ネットユーザーの行動は様変わりしました。その結果がこの違いに現れているといえるでしょう。

さらに、直近の業績からもYahoo!の停滞は色濃くなっています。ディスプレイ型広告が2四半期連続して、前年割れしているのです。これはYahoo!というメディアの価値が損なわれている証左といえ、Yahoo!の経営陣を大いに焦らせたに違いありません。

好調なアジアからの投資収益

さて、このように停滞するYahoo!ですが、業績面でポジティブなニュースもあります。それは、Yahoo! Japan、アリババからの投資収益です。下記グラフからもわかるように、2012年度は本業である広告の利益を上回っています。

「爆速」のYahoo! Japan、急成長する中国のアリババ。Yahoo!は両社の筆頭株主ではないため、投資収益という形で株式保有の恩恵を受けていることになります。言い換えると、冒頭の売上・営業利益のグラフにはYahoo! Japan、アリババの数字は含まれていないということです。

Yahoo!の残念なM&A

停滞する本業を受け、Yahoo!はTumblr以前にも成長機会を求めM&Aを行ってきました。しかし、Yahoo!によるM&Aの歴史は明るいものではありません。

とくに、2005年に行われた2つのM&Aはネットユーザーに対し、「Yahoo!に買われるとろくな事はない」という印象を持たせるに十分な顛末を見せていました。まず、ソーシャルブックマークサービス「Delicious」の3000万ドルの買収、こちらは鳴かず飛ばずで結局YouTubeの創業者に売却されてしまいました。そして、写真共有サービス「Flickr」、買収価格は明らかになっていないものの、このM&Aも思うような結果は残せていませんでした(ただし、こちらは後日談があります)。

ただし、これらのM&Aがうまくいっていないのは、「Yahoo!だから」というわけではなく、「世にある多くのM&Aと同様に」というのがフェアな見方な気がします。

Tumblr?

そこで、今回のTumblr買収。Tumblrは以下の様な言葉で表現されることが多いです。

 ・ミニブログサービス
 ・ユーザー作成型のコンテンツサイト (User Generated Media)
 ・高いソーシャル性
 ・モバイル利用
 ・若者の間で人気

筆者はTumblrユーザーで、どれも言葉にしてしまうとピンと来ないのですが(試してみるのが一番!)、気に入っている点はなにより「シンプルなこと」です。Facebookのように自我を刺激することのない、居心地のいい空間がそこにはあります。よりクローズドであり、反面拡散性という意味では低いかもしれません。

ともかく、長期に渡る検索での敗北、ソーシャル・モバイルという新しい潮流に遅れてきたYahoo!にとって、願ったり叶ったりなターゲットといえそうです。

高すぎる買収価格

さてそんなTumblrにつけられた11億ドルという価格は果たしていかほどなのでしょうか?

一部報道によるとTumblrの2012年の売上は1300万ドルといわれており、買収価格はその84倍。この数字は、Tumblrがこれまで集客に注力しており、マネタイズに執着してこなかったことを考慮したとしても高すぎる買収価格と言わざるをえません。ただし、組み合わせとしては良いため「極めて未来志向な案件」だといえます。

「台無し」にならないかも……?

今回の買収案件は果たしてうまくいくのか?

高すぎる買収価格は極めて高いハードルと言わざるをえないのがごくごく当たり前の結論です。ビジネス的には「台無し」になりそうな予感がプンプンします。

そんな中、「台無し」にならないかも……という前向きな要素を見つけられるとすれば、それはCEOのマリッサ・メイヤーでしょう。

まず、彼女は今回のM&Aに合わせて、Flickrの大幅リニューアルを発表し「Yahoo!の残念なM&A」のイメージを払拭しようとしました。また、就任後買収した要約のモバイルアプリ「Summly」の技術をYahoo!のモバイルアプリに導入し、モバイルへの注力とそのスピード感をアピール。いずれもマリッサの本気度合いを伺わせるものです。

Yahoo!のコーポレートカラーである「紫」は変化の色だといいます。今回の案件を経て、Tumblrは、そしてYahoo!はどう変化していくのでしょうか?

個人的にはTumblrが「台無し」にならないことを願いつつ、今回の案件を見守りたいと思います。




本レポートは、企業業績や財務状況を直観的に判断できるビジュアライズレポートが個人投資家を中心に高い評価を受けている当社グループ広報・IR部の丸山(元、銘柄分析サービスの(株)シェアーズ アナリスト)が、独自の視点で企業・業界分析しているレポートです。


2013.06.03



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