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社内レポート

2012年11月28日(水)

サービスの展開はコスト意識を持って行うことが大事

コストは製作者だけでなくユーザー側にもかかる

GMOゲームセンター株式会社で取締役副社長を務める木村貢大による、GMO最新ネット業界レポート「スマートフォン編」。長年にわたり携帯電話向けミドルウェアやサービスの開発に従事してきた木村が、独自の視点からスマートフォン市場で勝ち残るためのポイントを解説する。

スマートフォン向けのサービスを作って展開していく上で考えるべき重要な要素のひとつに「コスト」がある。ここで言うコストとは、提供者側のコストだけでなく、利用するユーザーにとってのコストも含んでいる。そしてより大切なのは、コストとはお金だけではないということだ。今回は、スマートフォン向けのサービスにとってのコストに対する考え方について解説する。

記事INDEX

しっかりとしたコスト意識を持つ

前回(【第96回】サービスを展開させる環境を見極める)のテーマは、サービスは適切な土壌に適切なタイミングで植えましょうという内容でした。では、適切な場所に植えることができたとしたら、次にするべきことは何でしょうか? 当然、サービスの内容を見直しながら、より良いものに変えていくことを考えると思います。このときに必ず持たなければいけないのが「コスト意識」です。

サービスを作る側・提供する側が支払うコストはもちろんですが、それ以上に意識しなければならないのが利用するユーザー側にとってコストです。もちろん、コストとはお金のことばかりではありません。ユーザーにとっては、操作方法を覚える手間もコストですし、アプリが処理をしている間の待ち時間もコストになります。

第77回(スマートフォン市場で勝ち残るサービスを作る-Vol.2-)のレポートでも、「待ち時間はユーザーにとっては立派なコストである」ということを説明しました。スマートフォンを使う一般的なユーザーは、最先端の技術やサービスを積極的に使ってくれるアーリーアダプターと呼ばれるユーザー層とは違って、サービスを利用するために余計なコストをかけてくれるとは限りません。どんなに優れたサービスでも、コストが高ければ使い続けてもらうことはできないのです。 したがって、このコストをいかに減らすかということが極めて大切になります。

待ち時間を減らす

それでは、具体的にどのようにしてユーザーにとってのコストを減らしていけばいいのでしょうか。第一のポイントは、先程も書いたようにできる限り待ち時間を減らすということです。ゲームなどでは特に顕著なのですが、ユーザーは頻繁に待たされればどんなに面白かったとしてもストレスになります。

携帯電話の新機種や、アプリストアでのアプリのレビューを見てみると、「動作が遅い」「読み込みが遅い」「起動時間が長い」など、"処理時間"に関しての感想が非常にたくさん並んでいることに気が付きます。このことは、待ち時間というものがどれだけストレスにつながるのかを明確に示すものです。ですから、ユーザーを待たせる頻度を極力少なく、且つ1回に待たせる時間も最小限に抑えて、ストレスなく利用してもらうことが重要になるわけです。

待ち時間を減らすためには入念なチューニングが必要です。最も基本的なアプローチとしては、画像などのコンテンツを軽くして読み込み速度を上げる、画面の移動回数を減らす、UIパーツを最適化するなどといった対策が挙げられます。プログラムの最適化によって処理速度を上げられるケースもありますが、そのためにバッテリーの消費量が増えることがないような配慮も必要です。待ち時間に関するノウハウについては第77回(スマートフォン市場で勝ち残るサービスを作る-Vol.2-)でも詳しく紹介しているので、本記事と合わせて参考にしてください。

認識・理解のためのコストを減らす

画面を見たときに、「どこをどう操作すれば何ができるのか」がすぐに認識できるようにすることも重要です。何をしたらいいのかわからずに迷っている時間というのは極めて大きなコストであり、ストレスにつながるからです。 典型的な例としてはアイコンが挙げられます。アイコンというのは単に格好良ければいいというものではなくて、それが何を表しているのかが一目で理解できなければいけません。どのようなデザインであれば、そのアイコンに関連付けられている機能をユーザーに伝えることができるのか、それが最も重要なことなのです。

どんなに優れたコンテンツだとしても、それを見る方法を知るためにユーザーが苦労するのでは、単なる自己満足に過ぎないのではないかと私は思います。

覚えるためのコストを減らす

使い方を覚えるために必要なコストというものも考える必要があります。サービスをスタートさせるときには、ユーザーは1から使い方を学ばなければなりません。そこで、覚えることをいかに少なくするかということがポイントになります。そのためには、これまでも再三にわたって説明してきた、シンプルにするということが重要になるわけです。

一度リリースアウトした後は、既存ユーザーが変化についてこられるようにするという視点も必要になります。もしいきなり使い方を大きく変更してしまったとしたら、既存のユーザーはまた1から操作方法を覚えなおすことになります。使い方を覚えるというコストを2度支払わせることになってしまうわけです。そのような大きな修正は、多くの場合うまくいかないものです。

仮に使い難いと言われているUIだったとしても、一度にすべてを刷新してしまうのはお勧めできません。例えばフィーチャーフォンのUIは、初期の頃は使い難いと言われて評判が良くありませんでした。しかし、結局は今でも基本的な構成は変わらずにそのまま使い続けられています。これは、そのUIに使い慣れはじめた多数の既存ユーザーに、新たに大きなコストを払わせることを避けたからだと思われます。

いくつかの機種で、UIを既存のものから大きく変更した例もありますが、評判は決して良いものではありませんでした。よく使う機能がそれまでと同じ操作では使えなくなってしまい、ユーザーを戸惑わせてしまったのです。UIの改善を目指すとしても、ユーザーのコストを考えながら少しずつ実施していくことが大切です。

今までの提供してきた色々なサービスでも、何度かのリニューアルを行っていますが、その際には変化の大きさという点に非常に気を配ってきました。ですから、大きなリニューアルといっても機能やUIを根本から変えるということはせずに、既存のユーザーに極力違和感を与えない範囲の変更に留めてきました。その代わりに、小規模な修正については日常的に行ってユーザーの満足度の向上に努めています。

小さな変更を積み重ねることがコスト削減につながる

リニューアルのような大きな変更や改善に対する方針としては、小さい幅の変更を積み重ねながら少しずつ実施していくことが大事だと思っています。その方が、個々の変更に対するユーザー側のコストが少なくて済むのと同時に、開発側のコストも削減できる場合が多いからです。

例えば、大きな新機能を3ヶ月かけて作ってリリースするのであれば、基本的な部分を1ヶ月で作ってリリースしてしまい、そこからユーザーの反応を見ながら最終的な完成形に近づけていった方がいい場合があります。新しいものを作る際には、スタートからゴールまでの道筋が見えていることが重要です。もし道筋がちゃんと見えているのであれば、そこに到達するために押さえるべきポイントも自ずとはっきりしてくるものです。そのポイントをひとつずつクリアしていけば間違いや手戻りは最小限で済ませることができます。

しかしゴールが遠くにありすぎると、道筋が正しいのかどうかを判断することが難しくなります。押さえるべきポイントもゴールが遠いほど曖昧になり、無駄な作業が増える傾向にあります。そしてもし道筋が間違っていた場合、修正するにはスタート地点まで戻る必要があるので、さらに大きなコストが必要になってしまうわけです。

このように、変化の粒度というのは開発側とユーザー側の双方のコストに大きな影響を与えます。逆に言えば、コストに対する意識をしっかりと持つことで、適切な変化量を見極めることができるということです。自分のサービスをより良い形への進化させるために、コスト意識を持った開発・展開を心掛けましょう。


取材日:2012.11.05