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社内レポート

2012年10月24日(水)

「グロス売上」と「ネット売上」2つの売上の違いとは?(後編)

スタートトゥデイにとって重要なKPIとは

日本最大級のファッションサイトZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイ。同社が持つ「ネット売上」と「グロス売上」という2つの売上高。そして、両者の関係から浮かび上がる「テナント手数料率」。テナント手数料率は本当に重要なKPIなのか?「率」と「額」という視点で今後の展開を占います。

GMOインターネット株式会社グループ広報・IR部 アナリスト丸山敦士氏が、独自の視点で企業を分析する業界レポートの後編をお届けします。

記事INDEX

「ネット売上」と「グロス売上」

ファッションサイトZOZOTOWNで一般ユーザーとアパレルブランドの橋渡しをしているスタートトゥデイ。その際、取引の「総額」を売上にするのが「グロス売上」、スタートトゥデイの「正味の取り分」を売上とするのが「ネット売上」ということを前編でご紹介しました。

【関連レポート】「グロス売上」と「ネット売上」2つの売上の違いとは?-前編-

スタートトゥデイの取り分の大きさを測る「テナント手数料率」は、グロス売上に対するネット売上の割合で導き出すことができます。このテナント手数料率の推移は次のとおりです。

ダイジなのは「率」より「額」

さて、テナント手数料率は本当に重要なKPIなのでしょうか? 受託ショップ事業・EC支援事業の「売上」を分解してみることにしましょう。

売上 = 粗利 = 取扱高 × テナント手数料率

テナント手数料率は「利益率」のような存在であり、あくまで粗利の総額を構成する一つの変数にすぎないということがわかります。

企業にとってダイジなのは、利益「率」を高くすることではなく、あくまで利益の「総額」を大きくすることです。率にこだわってテナント手数料率を上げようとすれば、取扱高にマイナスに働いてしまうかもしれません。なぜなら、アパレルブランド視点からすれば、スタートトゥデイに支払う手数料は「コスト」だからです。「そんなに高い手数料取られるんだったらZOZOTOWNに出品しないよ……」ということです。

利益率が高いと、いかにも凄いことのように思えます。しかし、率をKPIにしてしまうと、縮小均衡に陥りがちです。一回の取引あたりの利益の大きさ(利益率)よりも、取引を何回積み上げて、利益の総額を大きくするかがダイジということです。

「顧客不満足」解消企業としてのスタートトゥデイ

テナント手数料率の上昇は、アパレルブランドにとってZOZOTOWNが出品するだけの価値があるサイトに育ってきた証といえるでしょう。もちろんその背後には、ZOZOTOWNを使う一般ユーザーの存在があります。

スタートトゥデイはいかにして一般ユーザーのハートを掴んできたのか?その歴史を紐解いてみましょう。ポイントとなるのは「顧客不満足」という言葉です。スタートトゥデイはこれまで、ファッション関連ECサイトでの「顧客不満足」を解消してきた企業なのです。

かつて、ネットで衣料品を買う際の顧客不満足(言い替えれば、買わない理由)といえば、「ネットではサイズがわからない」、「返品できない」といったようなことでした。

スタートトゥデイは、各ブランドの衣料品のサイズを独自に測りなおすことで「サイズがわからない」という不満を解消し、さらに独自の物流システムを構築したことによる収益性の高さで「返品できない」という不満を解消してきました。

翻って、現在の最大の顧客不満足は何でしょうか?

それは「在庫がない」ことです。欲しい商品が見つかったのに売り切れ、これによって大きな販売機会のロスが生まれています。

なぜ、ミスマッチがおこっているのでしょうか?

それは、商品納入量を決めるのが各アパレルブランドだからです。何しろ、在庫リスクを負っているのは彼らです。さて、各アパレルブランドが在庫をWebに回す割合(EC化率)はどれほどなのでしょうか?

スタートトゥデイ最古参のビジネスパートナーである、ユナイテッドアローズの「ネット通販の売上高」と「EC化率」の推移を見てみることにしましょう。

ネット通販の年間売上高は、2008年の31億円から2012年には106億円と増加(amazonなどスタートトゥデイ以外での売上も含む)、これに合わせてEC化率も直近では11.1%まで上昇しています。また、「中期目標では12~13%」としています。ただ、直近ではEC化率の伸びが鈍化しているようです。

ただし、この数字はEC化先進企業であるユナイテッドアローズの数字だということは留意したほうがいいでしょう。スタートトゥデイが「オンワード・クローゼット」をEC支援しているオンワードHDでのEC化率は1.5%にとどまっているようです。(2012年2月期のオンワード樫山事業に関する数字)

オンワードのIRに電話取材したところ、リアル店舗ブランドを多数抱えているがゆえに、リアルとネットの連携に時間がかかっているということでした。なお、矢野経済研究所では、ファッション関連市場全体のEC化率を「2015年度に6.0%」と予想しています。

さて、取扱高をもう一度分解してみることにしましょう。

取扱高 = ブランド数 × 各ブランドの全取扱高(リアル・Web含め) × EC化率

取扱高を増やしていくには、ブランド数を増やしていくことはもちろん、EC化率を上げていくことが必要になります。

アパレルブランドの「不満足」とは?

アパレルブランド業界は、ユニクロなど一部の例外を除き、収益性の低下に悩まされている業界です。その要因の一つは、価値と価格のバランスが揺らいでいることにあります。プロパー価格(定価)では売れないため、セール価格での販売が常態化してしまっているのです。

アパレルブランド業界にとって、夏といえばセールの時期です。しかし、消費者がまさに欲しいと思うタイミングに敢えて価格を下げて提供するというのは、まるで業界ぐるみで価値を破壊しているように個人的には見えてしまいます。

この点、2012年シーズンは百貨店による夏場のセールの「後ろ倒し」が話題になりました。セール開始を後ろ倒しにすることで、できるだけプロパー価格で販売したい。価値と価格のバランスを取り戻したい、という思惑からでしょう。(なお、スタートトゥデイもセールを後ろ倒ししました。前編でご紹介した直近の取扱高の落ち込みはセールの後ろ倒しによるものです。)

適切な価値を認めてくれる顧客に適切なタイミングで届けるというのはWebが得意とするところです。「ネットかリアルか?」といった二元論ではなく、その相乗効果で顧客に価値を届けようというのが大きな流れでしょう。例えば、ユナイテッドアローズは、ネットで先行予約することにより、一般ユーザーのリアルな声を汲み取り、それをリアル店舗での商品展開に利用するという好循環が生まれているようです。先ほどユナイテッドアローズのEC化率の伸びが鈍化していることを指摘しましたが、これはEC以外、すなわちリアル店舗での売上が伸びていたからなのです。

これまでは一般ユーザーにとっての「顧客不満足」を解消してきたスタートトゥデイですが、これからはアパレルブランドにとっての不満足をEC化によって解消していくことになるはずです。そしてそのことが、各アパレルブランドのEC化率を上げ、それがZOZOTOWNの取扱高の増加に繋がっていくはずです。

「取扱高5,000億円」への道

スタートトゥデイは中長期的な目標として「取扱高5,000億円、経常利益500億円」という数字を掲げています。2012年3月期の取扱高実績が800億円超、2013年3月期の取扱高予測が1,115億円であることを考えると大きな数字に見えます。

個人的に注目しているのは、取扱高をKPIに掲げたスタートトゥデイが、「テナント手数料率」をどう使っていくか?ということです。粗利は「取扱高」と「テナント手数料」の掛け算で決まるというのは、これまで話してきたとおりです。両者がともに上昇すればそれはハッピーなことですが、トレードオフとしての性格も持っています。

証券会社のアナリストレポートでは、テナント手数料率は今後も上昇していくと予想しているところが多いようですが……。両者の関係に注目して、ファッション関連ECサイトの主導権争いを見ていくと、業界の構造が見えてくるのではないでしょうか?

ファッション関連のEC市場が拡大する中で、その主導権争いもまた活発になっています。amazonや楽天はブランド認知度・規模という武器を、ZOZOTOWNはファッション専門ECサイトとして先行してきた歴史という武器をそれぞれ持っています。

ポイントは、「ユーザーにどういう購買体験を提供できるか?」ではないでしょうか。この点、ファッション専門サイトであるZOZOTOWNは「単に、衣料品を売っているのではなく、ファッションを売っている」ように見えます。

「モノからコト」へと消費のトレンドが動いていく中、ファッション関連ECサイトではどういう戦いが繰り広げられていくのでしょうか?



本レポートは、企業業績や財務状況を直観的に判断できるビジュアライズレポートが個人投資家を中心に高い評価を受けている当社グループ広報・IR部の丸山(元、銘柄分析サービスの(株)シェアーズ アナリスト)が、独自の視点で企業・業界分析しているレポートです。


2012.09.18



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