第9回 マーケティング編 【前編】

ジャパンマーケットインテリジェンス
株式会社
執行役員副社長 織戸恒男
2008年秋のリーマンショック以降の深刻な経済不況で企業財務も厳しい状況に置かれています。そのような状況を受けて、マス広告やプロモーションといったマーケティング活動が企業収益にどのように寄与しているのか、その物差しとなる「マーケティングROI」という考え方が多くの企業で注目されるようになっています。
ところで、このROIとはですが、これはファイナンス用語で、株式や資産(不動産)などの投資でどれだけの効果を上げられたかという投資収益率(Return on Investment)のことを言います。
例えば、ある企業が1億円を使って株式投資を行い、年間500万円の利回りを上げることができたらROIは5%、30億円の資金を使って買収したホテルが年間3億円の収益を上げることができたらROIは10%となるなど、投資の善し悪しを判断する定量的な目安となっています。
こうした効果を会計上の数値として可視化できる株式や不動産の投資とは異なり、広告やプロモーションなどのマーケティング投資の効果の測定はこれまで難しいとされてきました。
その理由は、マーケティング活動は人間の情緒に左右される部分が大きいということが第一に挙げられます。また、その他にも、例えばある企業が出稿したテレビCM が、ブランドイメージ向上のための投資なのか、商品の販売促進のための投資なのか、はたまたその効果は本当にテレビCMとヒモ付いているかを判断するのが非常に難しいということも挙げられます。
そして、ある年のマーケティングROIが1%でも翌年は5%に改善するなど、毎年ROIにはバラつきがあるだけでな く、テレビCMを見た人が3年後にその商品を購入するといった「顧客生涯価値(LTV)理論」を引き合いに、年度ごとにROI効果の測定を行うには無理があるとの指摘もされてきました。
こうした数々の意見があり、マーケティングROIの測定は困難と敬遠されてきました。しかし長引く不況により、マーケティング活動全般の費用対効果においてもより分かりやすい指標に基づいて把握することが必要だと言われるようになっています。
特に、年間十億円以上もテレビCMに予算をかけているような大企業では、そのうち数パーセントでも削減できれば、その分を給与やボーナスに振り替え、従業員のモチベーションアップにつなげることができたり、新店舗オープン時に注目を集めるような斬新なプロモーションが打てたりと、活用できると言われているのです。
それでは、どうやってマーケティングROIの改善を図ればいいのでしょうか。それには、「効率改善」という視点が最も重要になってきます。
従来よりもマーケティング予算を削減しても同じ効果を上げられる「効率改善」を実現するには、まずは調査会社に依頼して消費者調査を入念に行い、購買プロセスを詳細に把握していくことが重要です。「うちの店舗ではお客様のことを把握している」とお答えになる店長さんもいらっしゃるかもしれませんが、実際に話を聞いてみると、「来店してレジに並ぶ」など、全体の流れを細かく把握されている方は少ないように思わ れます。
例えば、女性がアパレルショップで洋服を購入する時、どれだけの購買プロセスがあるかをご存知でしょうか?一例として右の図が考えられます。
こうした購買プロセスに沿って実施するマーケティング活動としては、テレビ広告、新聞広告、雑誌広告、折込チラシ、フライヤー、店舗のレイアウト、品揃え、接客対応、POP、口コミ、クーポン、ウェブサイト、メールなど多岐にわたります。ただ、これらがどこの部分で機能しているかを一度細かく把握することにより、全体の予算を削減しても、どこかでリカバーできるプロセスを発見できるでしょう。
例えば、ある店舗の店長さんが100万円のマーケティング予算を使って200万円の収益を上げなくてはならないとします。その場合、これまでは認知が最も重要と、初期段階においてマス広告にマーケティング予算の大部分を使ってしまうことが多かったようです。そうなると中間段階の各購買プロセスでのプロモーション費用をほとんどかけられないようになるため、次第に人数が減退していった結果、最終的には10人の購入者と3人 のリピーターを獲得するという状況になっています。
それに対して、初期段階のマス広告の予算を思いきって削減し、選考や意図・試行といった中間段階でウェブやモバイルサイトにてクーポンを発行するプロモーションを行った場合、初期段階での来店数は少ないものの中間段階でも減退率が低くなるため、最終的には同様の成果を上げることができます。さらに、この場合のマーケティング関連予算は、100万から80万円になり、20万円も削減できるため、マーケティングROIは大幅に改善することになります。
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収益を200万円上げるためにマーケティング関連予算を100万円使う場合
| 認知 | 考慮 | 選行 | 意図・試行 | 購買 | リピート | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| マーケティング関連予算100万円 | 60万円 |
10万円 |
10万円 |
10万円 |
5万円 |
5万円 |
| 各ステージの消費者の数 | 100人 |
80人 |
60人 |
30人 |
10人 |
3人 |
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収益を200万円上げるためにマーケティング関連予算を80万円使う場合
| 認知 | 考慮 | 選行 | 意図・試行 | 購買 | リピート | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| マーケティング関連予算80万円 | 20万円 |
10万円 |
20万円 |
20万円 |
5万円 |
5万円 |
| 各ステージの消費者の数 | 50人 |
30人 |
25人 |
20人 |
10人 |
3人 |
つまり、認知から購買に至るプロセス全般にわたってマーケティングROIを考える場合、きちんとした消費者分析に基づき、購買プロセス全体を最適化し、購買に対する影響度の高いプロモーション要素に、より多くの予算をかけたほうが効果的だということがわかると思います。
後編では、マーケティングROIの改善に向けて、「自社のパーチェスファネルを理解する」「今日の消費者のメディアへの関わりと企業のマーケティング予算とのギャップ」、「マスマーケティングの限界」「インタラクティブ性を持つウェブ広告の可能性」などについて述べたいと思います。
- 【第9回】マーケティングROI (後編)- 非効率なマス広告からウェブへの移行が進む時代への対応 -
- 【第12回】実践マーケティングROI向上策 (前編)- 実例を通じて、eコマースサイトで陥りやすい問題点を指摘 -
- 【第12回】実践マーケティングROI向上策 (後編)- ユーザビリティこそが効果的なeコマースサイトの運用の鍵 -
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